人工関節センターについて
概要
本邦における65歳以上の高齢者人口割合は26.7%(平成28年度調べ)に達し、世界でも有数の高齢化社会を迎えています。ここ十数年の間に平均寿命は延びてまいりましたが、日常生活に制限がなく介護を必要としない期間(いわゆる健康寿命)の延びは少ないことがわかっています(内閣府調べ)2)。日常生活において介護が必要となる要支援の原因としては「関節疾患」が19.4%と最も多く、特に下肢の関節疾患への対策が健康寿命を維持するうえで重要な課題となっています(厚生労働省調べ)3)。
要介護・要支援の原因として関節疾患が第一位
最も代表的な関節疾患として、変形性関節症があげられます。変形性関節症とは、経年的に軟骨がすり減り、軟骨の下にある骨が露出し、本来なめらかであるはずの関節の表面がいびつな形になってしまう病気です。変形性関節症が進行すると、関節の痛みや、見た目の変形だけでなく、本来の関節の動きまで障害されるため、立ち上がり動作や、歩行などに大きな支障をきたします。その結果、買い物や、近所の散歩やレクリエーション、友人や家族との旅行などのいわゆるQOL(クオリティ・オブ・ライフ= 生活の質)を著しく低下させてしまいます。
変形性膝関節症の経過。徐々に軟骨がすり減り、関節の隙間が狭くなります。
変形性股関節症の経過。関節の隙間が狭くなるとともに、骨の形が変形していきます。
人工関節手術は変形性関節症に対して、痛みの改善と、QOLの再獲得が可能な極めて有効な治療法であり、本邦においても年間約10万人以上の患者様が手術を受けておられます。2015年度調査で、高岡医療圏(高岡市、射水市、氷見市)における65歳以上の高齢者人口比率は、31.3%に上り、今後も高齢者人口の増加とともに人工関節手術の需要は増加の一途をたどると予想されます。
これまでも当院では、年間約100例前後の人工関節手術を行ってまいりましたが、今後は人工関節専門の医師のみならず、手術部および病棟看護師、リハビリ部門、事務、放射線部、薬剤部、検査部、栄養部など、各部門を含めた人工関節チームによる集約的医療体制の整備、および先進的医療の実施を主たる目的として、平成29年4月より「人工関節センター」を設立いたしました。
人工膝関節および人工股関節のレントゲンと実物写真
厚生連高岡病院院内骨バンク
人工関節手術を受けた患者さんの中には、術後長期経過して人工関節の耐用年数を超えてしまった状態で生活している患者さんもおられます。そのような場合、時に人工関節の入れ替え手術(再置換術)が必要になります。入れ替え手術においては、人工関節の周りの骨が傷んでいることが多く、新たに人工関節を設置するためにしっかりした骨の土台を作りなおす必要があります。同種骨を用いた骨の再建は安全かつ長期成績も良好であり、失われた骨を復元できる有効な唯一の方法です。
当センターでは、そのような再置換術の患者さんにも対応できるように、平成29年1月より『厚生連高岡病院院内骨バンク』の整備運用を開始いたしました。
人工関節手術後の不具合でお困りの場合は、ぜひご相談ください。
採取した同種骨を加温処理し、-80度の超低温フリーザー内で冷凍保存。
現在日本各地に人工関節センターは多数存在しますが、500床以上の大規模病院に併設されたものはまだ少なく、その多くが整形外科単科のクリニックや、中小病院におけるものがほとんどです。膝痛や股関節痛など、下肢の関節疾患でお困りの患者さんは、様々な併存疾患を持っておられる高齢者が多く、時として整形外科のみならず、他科と連携した周術期管理が必要になることがあります。当センターでは持病をお持ちの患者さんでも、各診療科の連携の元で安心して手術を受けていただける環境をご用意しております。
膝や股関節の痛みで日常生活が不便であるにもかかわらず、“高齢だから”、“いろんな病気があるから”といった理由で治療を躊躇しておられる方も多いと思います。当センターでは各診療部門が一体となり、患者さんの治療を全力でサポートいたします。ぜひ力を合わせて痛みや制限のない日常生活を取り戻しましょう。
1)https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html
2)https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2015/html/gaiyou/s1_2_3.html
3)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.html
スタッフ紹介
人工関節コーディネーター(整形外科外来)
人工関節に関する質問がございましたらコーディネーターになんでもご相談ください。治療に関する保険や医療費などの医療事務的な内容や、社会福祉制度について、信頼できる相談窓口として丁寧に対応します。
専門医による手術
一口に人工関節といっても、肩や肘など上肢の人工関節から、股関節、膝関節、足関節などの下肢の人工関節までその種類は様々です。手術を行う関節の部位や変形の程度により、手術の内容や難易度も異なります。当センターでは各人工関節の部位別に3人の経験豊富な専門医による人工関節置換術を行っております。
経験豊富な専門医による人工股関節置換術
人工関節手術専任看護師
人工関節の手術は、執刀医及び手術室看護師からなる“手術チーム”全体の迅速かつ清潔な手術操作が要求されます。そのためには、手術介助を行う手術室看護師も執刀医同様の手術手技の理解が必要になるため、当センターでは人工関節手術に習熟した“人工関節手術専任看護師”が担当します。
人工関節手術に使用する多数の専用機材と人工関節専任看護師による手術介助
リハビリテーション部門
人工関節手術の効果を最大限に引出すためには術後早期からのリハビリテーションが重要です。当院では手術翌日から人工関節専任の理学療法士による歩行訓練を開始しております。1週間程度で独歩可能となり、その後は体力に応じて階段昇降などの日常生活動作の訓練を行います。術後10日~2週間で歩いて退院が可能です。
退院後の経過についても関節機能が順調に回復、維持できているか担当医師と協力しながら丁寧に評価いたします。
疼痛管理
人工関節術後のリハビリを円滑に行うためには、術後の疼痛管理は非常に重要な要素です。当センターでは、硬膜外鎮痛法や末梢神経ブロック法、または鎮痛剤のカクテル療法などを積極的に導入し、手術が終わった後の痛みも最少限になるように心がけております。センターの専任薬剤師が細やかに対応します。
快適な入院生活
病棟では看護師、薬剤師などの多くのメディカルスタッフによって、感染症や深部静脈血栓症など手術後の合併症を防止し、快適で安全な入院生活を送って頂けるよう、会議を繰り返しながら息の合ったチーム医療を提供いたします。個々の患者さんに対応した最適な医療を提供できるようサポートいたします。