
2025年2月1日13時より当院にて「医師力UPを目指す Academic Half Day」が開催され、東京医療センター総合内科の片山充哉先生、高槻病院総合内科の筒泉貴彦先生、信州大学総合診療科の関口健二先生の御三方にお越しいただき、勉強会が開催されました。勉強会には当院研修医のみならず、医学生、他院の医師、研修医など30名ほどの参加者がおり、5〜6人ずつのグループに分かれそれぞれのグループで議論を行う形式で、勉強会は大変盛り上がりました。
御三方は米国臨床留学を経て現在に至るまでご活躍されており、臨床経験豊富な先生方の臨床推論の過程を学ぶ機会となりました。
内容は大きく3部構成となっており、
①片山先生「救急外来における感染症診療」
②筒泉先生「女性患者診療に物怖じしない3つのコツ」
③関口先生「高齢者診療が得意になる3つのコツ」
とそれぞれの先生が担当するテーマで臨床推論を進めるという形式で行われました。
片山先生のレクチャーでは診断上手になるコツとして、常にシミュレーションすること、フィードバックを行うことが重要であるとまず学ばせていただき、病気のOnsetと経過が最も重要であり、問診が重要であることを学びました。症例は70代女性が2日前からの腹痛、1日前からの嘔気嘔吐を主訴に救急外来を受診し、その原因について解明していくという内容でした。ストーリーとしては4ヶ月前に大動脈弁生体弁置換術の既往、糖尿病に対してSGLT2阻害薬が開始されているという状況でした。身体所見、検査所見を確認し、脾梗塞、心房細動、代謝性アシドーシスが新規に出現しており、その背景にある疾患について考察していく内容でした。結果として生体弁に疣贅付着があり感染性心内膜炎で体調が悪化し食事が取れなくなり、さらに脾梗塞、心房細動を発症し、内服薬を継続していたためSGLT2阻害薬によるEuglycemicDKAを発症したというものでした。複雑な病態となっていましたがグループごとに良い議論を行うことができ、診断について当事者として考える重要性を学びました。また、フィードバックとして空腹時にSGLT2阻害薬を継続している場合のリスクについても学ぶことができ、今後の診療に活かそうと思えました。

筒泉先生のレクチャーでは女性診療において、女性特有の状態・疾病、被曝・造影剤のリスク、薬剤の安全性というコツについて意識しなければならないことを学びました。相手が女性であるということで服の下を確認しないことは避け、皮疹などがないかを確認することも重要であることや、妊婦の診察で放射線検査をするときにどういう時がリスクになるかを知っておくことが重要であると学びました。また、薬剤も感冒薬や抗菌薬、抗炎症薬などは頻用の薬剤ですが、それらも妊婦に問題なく使えるもの、使えないものなどを知っておかなければならず重要な内容でした。症例では腹痛の方と、胸痛の方の2例が提示されどういう問診や検査が必要かをグループで議論し、診断に至るまでの過程を学ぶことができました。1例目はSTIによるFitz-Hugh-Curtis Syndrome、2例目は肺塞栓症でした。1例目は問診で性交歴をきちんと確認し、性感染症のリスクがあるためその検査を行うことで診断に至ったものでした。2例目は肺塞栓が強く疑われているものの妊娠しており、侵襲の少ない検査のみでは診断に至らないケースであったため、ヨード造影剤の適応がある場合は造影CTを撮影しても良いということを理解した上でその検査を行い診断に至ったケースでした。まさに筒泉先生の教えてくださったコツが重要となる症例でした。

関口先生のレクチャーでは高齢者診療では、コミュニケーションハードルを超えること、重症度を生活機能の時間軸で考えること、目の前の高齢者のゴール設定ができることがコツであると学びました。高齢者診療は私たちも普段の救急外来でよく経験しますが、本人への問診が役に立たないことが往々にしてあります。そのため患者家族や施設職員に話を聞く必要がありますが、状況をよくわかっていない状態であることもしばしばあり、正確な状況把握に苦労することがあります。これをコミュニケーションハードルとして乗り越えなければならないとのことでした。症例では90代男性が頸部痛、下肢脱力、転倒疑いで救急搬送されたもので、転倒したかどうかわからない状態でしたが診療を進めなくてはならないものでした。関口先生のレクチャーでは症例から一旦離れて患者家族にどのような話をするべきかというものに話題が移りました。3 stage protcolという病状説明、ケアのゴール、治療方針の確認という順番で行っていき、その際に患者の背景を深掘りしていくことが重要であると学びました。これらはスキルであり身につけることによって患者家族も納得するような方針を立てる重要性を学びました。DNARもただ了承してもらうというわけではなく、患者の尊厳を尊重した態度をこちらがまず示すことにより患者家族の感情や希望を共有しその中でのベストな方針を示していくスキルを身につけることにより治療方針を決定することで納得して進めることができることを学べました。症例は偽痛風による疼痛で、鎮痛による治療が行われました。

かなりボリュームのある内容であったため、質疑応答は最後にまとめて行われる形となり、他院の研修医から留学についての質問があり、御三方がそれにそれぞれ答えていくというものでした。留学することによって日本とアメリカの医療の差がわかり、切磋琢磨する仲間がいることで留学の道が開けたとのことでした。
非常に有意義な勉強会となり、御三方から学ぶことができた内容はすぐに自身の診療に取り入れることができるものでした。しかしそれぞれは別々のスキルであるため日々意識して取り入れていかなくてはならず、一朝一夕には身につくものではないため、普段から意識して取り入れていこうと思います。先生方の貴重なお時間でレクチャーしていただき誠にありがとうございました。
当院ではこのようなレクチャー形式の勉強会が頻繁に経験できる研修をすることができます。医学生の方はご興味があれば病院見学、レクチャーに参加等をしていただければと思います。
